決算書は、お金を管理しているのではない



  「お金の管理をしっかりしないといけないということですね。」と経営サポートの現場で、月次決算の必要性を伝えている時に言われたことがある。

 即座に私は、「お金の管理をするのではありません。皆さんの行動を管理するのです。」

と言ったが、「何を言っているのだ?」という顔をされた。

 決算書は、数字が書かれていて、その数字は、お金を表しているのだから、お金の管理だと思う方が多いと思うが、決算書は一人一人の社員やスタッフの行動の結果が表されてるものである。

 例えば、電気工事業で、エアコンが効かなくて困っているので修理をして欲しいと高齢者からの問い合わせに、本来ならば業務時間外であるが、エアコンの修理に行ったという社員がいた場合、売り上げは上がるが、原価である人件費(特に残業代)が増え、粗利率が下がるという結果が決算書になる。

 また、時間外に対応したことを他の社員や幹部、経営者に知られないために、残業を申請せずにサービス残業をする社員もいるが、この場合、利益率は変化せず、売上も粗利益額も増えるので会社としては望ましい成果に見える決算書になる。

 しかし、このどちらも残業をせざるおえないブラック企業として社員やスタッフが感じるようになると会社をやめる人が増え、入れ替わりが激しくなり、社員の定着率が下がることにつながる危険がある。

 別の例は、商品の注文が95個入り、100個入りの箱から、5個取り出して、納品する。次は、80個注文が入ったので、100個の入りの箱から、20個取り出して、納品するという行動が繰り返されるが、バラになった商品を数えて出荷するという行動をする人がいなかった場合、気が付くと決算書には、売上、利益は順調に伸びているが、在庫が増えていき、現金が増えないというような結果が表されている場合もある。

 介護や保育などの福祉施設で、職員が利用者を飽きさせないよう楽しませるために、レク用品などを購入する。美味しいものを食べさせて喜ばせたいとも思いから、お菓子やデザートを買ってくるなど、利用者の喜ぶ顔が見たい職員が一生懸命にそういう行動をしていると経費が増え、利益が減るという結果が表される。

 このように、決算書というのは、一人一人の社員やスタッフの日々の小さな行動の積み重ねによって出てくる結果である。

 経営者は、できるだけ早く、望ましくはリアルタイムで会社の業績がわかるような環境を整備し、分析して手を打たなければならない。

 残業をしている場合は、早急に残業をしなくてもお客様の問題を解決できる体制にするという手を打ち、在庫が増えている場合は、バラの商品も出荷される仕組みを作るという手を打つ。利用者の喜ぶ顔が見たい職員のために費用のかからない別の方法を考えるなどの手を打つなどである。

 決算書で行うのは、お金ではない。

 決算書が表しているのは、一人一人の行動の結果である。

 経営者は、決算書から一人一人の行動を読み取らなければならない。

 経営者は、お金を管理しているのではない。

 マネジメント、経営とは、お金を管理するだけのことではない。

 経営とは、一人一人の長所を発揮させ、生産性の高い仕事に集中させることだと思う。

 ドラッカーのマネジメント(エッセンシャル版、上田惇生編訳、ダイヤモンド社)の第9章の結論にリーダー的な階層が持つ権限の正統性について、

 「そのような正統性の根拠は一つしかない。すなわち、人の強みを生産的なものにすることである。」

とある。

 経営者やリーダーが、決算書から一人一人の行動を読み取り、一人一人が強みを発揮できるような組織の仕組み作りにつなげることができれば、働く人々の苦しさの軽減や幸福感のアップにつながると思う。

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